理事の代表権の濫用(りじのだいひょうけんのらんよう)
社団法人や財団法人の理事が、代表権の範囲を超えて、法人を代表する行為を行なった場合については、その代表行為が法人の「目的の範囲」を明らかに逸脱するものであるときは、その代表行為に対しては法人は責任を負うことはない。(詳しくは法人の権利能力・行為能力へ)
また、理事の代表権が定款等により制限されている場合については、その定款等による制限を知らない(=善意の)相手方は、民法第54条により保護される。(詳しくは理事の代表権の制限へ)
しかしながら、理事が法人の「目的の範囲内」において、定款等による制限の枠内で代表として行動した場合であっても、理事が自己の私利私欲を目的として行動する場合があり得る。(例えば法人の理事が、法人所有の不動産を勝手に売却した場合など)
このように、理事がもっぱら自己の利益のために代表行為を行なうことを「代表権の濫用(らんよう)」という。
代表権が濫用された場合については、法人としては損失を受けないためにその代表行為の効力を否定するべきであるし、他方、取引の相手方は通常そうした理事の真意を知らないのであるから、こうした相手方は原則的に保護すべきである。
しかしこの点につき、民法上では明文を欠くため、問題となる。
この点につき判例では、心裡留保に関する民法第93条但書を類推適用することとしている。(昭和38年9月5日最高裁判決など)
本来、第93条但書は、本人が冗談などの真意と異なる意思表示をした場合には、その真意を知らず、かつ知らないことにつき過失がない(=善意かつ無過失の)相手方を保護するという規定である。(詳しくは心裡留保へ)
判例はこの第93条但書を理事の代表権の濫用にも類推適用し、濫用があることを知らずかつ知らないことにつき無過失の相手方を保護するとしているのである。
もっとも、理事の代表権の濫用のケースでは、理事は代表行為の効果が法人に帰属することを完全に知っているのであるから、冗談などの心裡留保とはかなり状況が異なるのであるが、判例では取引の安全を保障するために、第93条但書の類推適用により、濫用について善意かつ無過失の相手方を保護していると考えることができる。
理事の代表権が濫用された場合については、法人としては損失を受けないためにその代表行為の効力を否定するべきである。
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